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萌えぎのエレンのメインブログです

語られなくなった安倍なつみ

江連博士の日記から

つんく♂アップフロント

 モーニング娘。についてぼくらが知らないこと。それは、プロデュースするのはつんく♂だが実際に売り出したのはアップフロントという芸能プロダクションだということ。例えば、「安倍なつみをメインに売り出すためにモーニング娘。が結成された」というぼくらの記憶は、つんく♂の意志ではなくアップフロントの戦略によって植え付けられたものだった、ということだ。
 モーニング娘。を作ったのはつんく♂だ。テレビ東京ASAYANという公開オーディション番組の企画。小室哲哉がプロデューサーとしてヒットを連発していた時代だった。ASAYANでのシャ乱Qが関わるオーディションのなかで、オーディション落選者をつんく♂がプロデュースする流れとなり、モーニング娘。が生まれた。
 これまでぼくらは、プロデューサーがどんな仕事を行っているのかを知らなかった。本やインタビューなどの、つんく♂の発言を読むと、それが良く分かる。最近のつんく♂は、モーニング娘。について振り返ることが多い。ハロプロの総合プロデューサーを降りた彼の発言から、これまで知られなかった新事実が読み取れる。
 声帯摘出により声を失ったつんく♂は、まず、著書『だから、生きる。』(2015年)にて、多忙を極めたプロデューサー時代を振り返る。自分の意志で何でも決められることが快感で、休む時間が無かったけれど夢中になった。そして、身体が悲鳴を上げていた。
 つんく♂の著書、そして『モーニング娘。 20周年記念オフィシャルブック』(2018年)に掲載された彼のインタビュー。近年のつんく♂の発言の要点は以下の通りだ。

モーニング娘。について、メンバー選考、作詞作曲、レコーディング、サウンドの方向性、ダンスやコンサートの演出まで、ありとあらゆる決定を行った。
モーニング娘。楽曲はシャ乱Qでは出来なかった100%つんく♂サウンドと呼べるものだった。
モーニング娘。の楽曲は、その時点でのメンバーの人物像、キャラクターに当てはめて書かれたものであり、新メンバーの加入によって変わっていくものでもあるが、例えば、その歌詞の登場人物(主人公)の性格は、意外と変わらない。
安倍なつみなど、センターとなるメンバーを贔屓しては、いなかった。
デビュー当時、安倍なつみを推していた(安倍を中心に売り出していこうと考えた)のは、つんく♂ではなく、当時のモーニング娘。マネージャーであった和田薫
メンバーの選考について100%つんく♂だったのは4期メンバーまで。
LOVEマシーン」のヒット以前は、つんく♂の好きにやらせるという、のんびりした空気だった。
アップフロントハロプロ研修生(当時のハロプロエッグ)を重要視していなかったので、エッグからモーニング娘。メンバーへ昇格させることが難しかった。
つんく♂ハロプロ研修生(エッグ)のメンバー、全ての人となり、キャラクターを把握していた。
ここまでがハロプロ総合プロデューサーだった頃のエピソード。
プロデューサーを降りたのは病気のせいではなく、自身が描くハロプロアップフロントが目指すところが違ってきたため。

 ハロプロの総合プロデューサーを降りてから、つんく♂は、ハロプロについて、ほぼモーニング娘。についてしか語らなくなった。著書にも書かれているが、モーニング娘。は「音楽人生の半分以上を賭けてきた」存在だと言う。『オフィシャルブック』ではモーニング娘。を「もう1人の僕」だと言う。Berryz工房℃-uteなど、つんく♂プロデュースのハロプログループは数多くあるが、それらについて彼が語ることは、無くなった。彼にとって、モーニング娘。は特別なものなのだと、ぼくらは気付かされた。
 つんく♂ハロプロの、モーニング娘。の総合プロデューサーから離れて、現在のモーニング娘。はどうなっているのか?
 つんく♂モーニング娘。をプロデュースする際に重要視していたのは、自分を驚かせてくるような新メンバーを探して加入させること。メンバーから刺激を受けて曲を作ること。16ビートのリズム感を教えること。ハロプロの総合プロデューサーを降りて、現在ではハワイ在住のつんく♂は、以降に加入したモーニング娘。新メンバーについて詳しくなく、曲の「当て書き」が出来ないことを少し悔しがっている。
 つんく♂が他のプロデューサーと違っていたのは、自ら仮歌を録音することだ。初期にはレコーディング時にマンツーマンで指導していた。それは、陶芸家が弟子にその技を相伝する行為に近い。喉の調子が悪くなり仮歌の収録を止めるまで、彼は仮歌を録音し続けた。結局、喉頭癌で声帯を失うこととなった。彼は命を削ってハロプロを作ってきたのだ。
 2015年から、ハロプロつんく不在の穴をどうやって埋めるか、必死だった。本題ではないので詳しくは書かない。
 モーニング娘。'14のニューヨーク公演。これはプロデューサーつんく♂の最後の仕事だった。翌年の2015年から、つんく♂モーニング娘。に楽曲を提供するソングライターとしてモーニング娘。に関わるようになった。他のハロプログループに曲を書くことは、ほとんど無くなった。
 モーニング娘。'15からは、つんく♂のプロデュースでは無くなった。ぼくらはこれを、富野由悠季以外の監督のガンダムのように感じ取って、見続けている。ガンダムとは富野監督作品のみを指すというファンがいると聞く。
 最新のモーニング娘。のアルバムには、つんく♂楽曲が多く収録されているのだが、それまでの「Produced by つんく♂」と表記されていた頃と比べて、どこか物足りなさを感じてしまう。全体的に似たような曲が続く。聞きやすいかもしれないが、「Produced by つんく♂」ラストとなったハロプロ研修生のファーストアルバム(2015年発売)のような、鮮烈な印象とは程遠い。

安倍なつみの尻尾

 ところで、ぼくらの記憶だと、モーニング娘。の中心人物は、グループのマザーシップとも称された安倍なつみだった。どう見ても、そのように感じられた。「ふるさと」までのモーニング娘。楽曲は、安倍なつみを主人公として描かれたものだと思っていた。だからぼくらは、プロデューサーのつんく♂自身が安倍にかなり入れ込んでいたのだと思っていた。ところが、最近のつんく♂の発言を読むと、安倍なつみをそこまで高く評価していないことが気になった。
 ハロプロ20周年ということで、現在のモーニング娘。メンバーが歴代の先輩についてインタビューなどで語ることが多いのだが、安倍なつみを偉大な先輩だと発言する者が一人もいなかった。
 安倍なつみの名前を挙げるモーニング娘。現役メンバーが居ないことについては、とりあえず無視する。彼女たちの自由だからだ。勝手にすればいい。しかし、つんく♂安倍なつみについて、さほど絶賛していないのは、意外だった。
 しかし、「LOVEマシーン」ヒット後に刊行されたつんく♂の著書『LOVE論』(2000年)を読み返してみると、つんく♂安倍なつみ評は、当時から現在まで、変わっていなかった。この著書では、安倍を森高千里つんく♂にとってはアップフロントの先輩)と同様の「敷居の高い女」と称するが、要するに頑固なのだと言う。2018年の『オフィシャルブック』のインタビューでも、安倍=頑固と答えている。その点で、つんく♂の発言は一貫している。
 その前の時点、モーニング娘。結成の経緯について、つんく♂はこれまでに何度も語っているが、ハロプロの総合プロデューサーを降りてから、その発言のニュアンスが微妙に変わってきた。もう、ぶっちゃけても良いだろうという感じだ。『オフィシャルブック』のインタビューの冒頭、つんく♂は、こう語る。マネージャーの和田薫安倍なつみを中心に売り出すと息巻いていた。和田はシャ乱Qのマネージャーでもあった。和田の仕事がなければシャ乱Qのヒットはなかった。つんく♂は世話になった和田に恩返しをしたいということで、和田の意向を汲み、モーニング娘。のプロデュースを引き受けた。
 プロデューサーであるつんく♂自身、安倍なつみをメインに売り出すとは一言も言っていないのだ。これがモーニング娘。の真実だ。
 初期のアップフロントの戦略で、ぼくらは安倍なつみこそがモーニング娘。だという記憶を持つ。しかし、実際には、そうではなかった。安倍の人気が高いことは嘘でも幻でもない。だけどそれは、コンサートでなっちコールを繰り返すぼくらだけが知っている。それは、ぼくらが共有する体験談だ。
 安倍なつみ後藤真希、そしてハロプロのソロ歌手として最も有名な松浦亜弥。ぼくらは、この3名を「御三家」として特別視するけれど、つんく♂は誰も贔屓していないし、彼は、あの頃は良かったというような、過去の栄光にすがるような発言をしていない。『オフィシャルブック』でのつんく♂インタビューでは、どの時代のモーニング娘。が良かったと優劣を測るようなことはなかったし、現在でも過去の曲は古びていないのだと、いわば、モーニング娘。全肯定を行っている。
 そのようななかで、ぼくらは、ずっと勘違いを続けてきたのだろうか。
 ぼくらはこれまで、全てのハロプロメンバーにとって安倍なつみとはアークマスター(ここでは精神的支柱を指す)となっているものと、信じて疑わなかった。2018年現在、そういうふうには、なっていない。ぼくらがそう信じて疑わなかったのは、現在のモーニング娘。メンバーからリスペクトされている高橋愛を、それほど高く評価していなかったからだ。正当なものの見方ではないことは承知している。現在の若いファンにとって重要な、いわゆるプラチナ期が、ぼくらにとっては退屈でしかなかった。
 高橋愛が絶賛されて、安倍なつみが無視されている。そのように感じるから、ぼくらは歴史の改変だと叫んだ。最近の安倍は育児休暇中であり、他のモーニング娘。OGと違って芸能活動を控えている。そして、ハロプロ20周年として多くのモーニング娘。OGが積極的にインタビューに答えているなかで、安倍は多くを語らない。現在でもモーニング娘。現役メンバーに言及しコミットしているモーニング娘。初代リーダー中澤裕子とは対称的に、安倍なつみは沈黙している。それは、もしかしたら、彼女の願う世界だったのかも、しれなかった。
 安倍なつみのファンとして、思うところがあったので、ここまで書いたのだが、冷静ではないことを分かって頂けるだろうか?
 現在のハロプロについて、ぼくらは何を見ているのか。興味が無くなったわけではない。無理してハロヲタを続けているわけでもない。そして、ぼくらがハロプロ以外のアイドルに夢中になることは無い。ハロプロと同じアップフロント所属のアプガや吉川友であれば見ることはあるかもしれないが、ハロプロ特有の「癖」にすっかり馴染んでしまっているぼくらは、ももいろクローバーやAKBのような他社のやり方が好きになれない。アイドルファンのなかにはハロプロだけは見ないという者がいる。だから、ハロプロだけを見続けるぼくらには理由がある。
 ぼくらにとってモーニング娘。メンバーとは、安倍なつみからバトンを託された後輩なのだから、たとえ彼女たちから安倍の名前が出てこなくても、決して無視出来ない。
 そのように考えるぼくらは、いわば安倍なつみの尻尾だ。