モラード・カーバイト
ぼくが少し前から気になっているのは、エストの作者であるAFガーランド(ファティマ制作者)のモラード博士の話題が出てこないことだ。ヨーンとデコースの決闘でデコースは敗れたが、デコースが自身のファティマであるエストについての持論を死ぬ直前に述べていた。それはミースの見解が元になっている。アウクソーの件でミース邸にAFガーランドが集まったときにミースはモラードとさんざん話をしたはずだから、ミースがデコースに話したエストについての見解が間違っているとは思えないけれど、生みの親に語って欲しかったという思いがある。彼は詩女フンフトと一緒にいてファティマタワーの制作中だということしか分からないし、自らのコピー化についても行われたか現時点では不明(16巻)。もしかするとタワー制作中はラーンから出られないのかもしれない。
ファイブスター物語3巻、ラキシスと会ったときの話。ラキシスがモラードに伝えたのは彼女自身の本性であり、この時点では遠い未来の星団暦7777年以降の惑星フォーチュンについて語ったものだ。自身がファティマではない何者かであることをモラードに伝えた。モラードはその場で彼女が何者か理解したようだった。けれど、そのためには、ファティマ制作の、ガーランドとしての知識の他に色々と知っていなければならないはずだとぼくは感じた。後に描かれるのだがラキシスはバランシェ博士によってファティマを超えた存在に作り替えられている。それはラキシスが永遠の命を持つ天照帝と添い遂げたいという願いからだった。ラキシスは人知を超えた存在となり、分かりやすく言えばバランシェはファイブスター物語における神々のひとりを生み出したのだ。
ラキシスの言葉は詩女ムグミカによって日本語訳も伝えられたから(同じく3巻に掲載)ぼくも読めたけれど、それは詩のようなものだ。ラキシスとモラードのエピソードが掲載された時点で、トイズプレスのファイブスター物語キャラクターズなどで作者が公開していた裏設定や今後の展開についての文章や、なにより年表にて公開されている星団暦7777年のメモなど、それらを知っているからラキシスが何を言わんとしているか読者であるぼくは何となく分かるけれども、それらを知らないモラードが彼女の言葉を理解するためには、バランシェと同等の、言い換えれば神の領域に踏み込んだ禁断の知識がなければ、後に弥勒菩薩と呼ばれるラキシスについて理解出来ないと思うのだ。
モラードがラキシスの言葉を聞いて、どこまで理解したのかは正直分からないけれど、バランシェとモラードはトップクラスのガーランドなので、彼らでなければ知りえない領域があるのかもしれない。モラードにとってバランシェは友人でありライバルだという。そして、ラキシスとの出会いがモラードを狂わせた、とある(2巻)。モラードが代表作と呼べるエストを作ったのは、その出会いよりも前のことだが、今にして思えば、エストに狂気を感じる描写が何度かあった。ぼくが覚えているのは、エストがデコースをマスターと認める直前の、鬼気迫る表情だ。
今回の決闘で、エストが別人格バーシャとなるシークモードを自ら壊していたことが判明した。デコースが述べていたのは、エストに隠された狂気のことだった。その後のヨーンとエストの会話からは、エストのダムゲート・プログラムが機能していないかもしれない「感情的な」振る舞いが見られた。バランシェファティマのなかにはダムゲート・プログラムを無視したものがあるようだけれど、エストもそれらと同じだとすれば、モラードにも狂気のガーランドとしての要素があるのかもしれない。
デザインズ4には、炎の女皇帝の娘ヤーン・ダッカスの外見がエストのイメージとなっていることや、ヤーンが指揮する超帝國皇帝騎士団がGTMダッカスの基となったのだと書いてある。GTMダッカスはファティマエストとペアになるようにモラードとルミラン・クロスビン教授(GTMガーランド)が共同で作った。モラードはGTMダッカスについて制作過程で関わっているので、当然、ヤーンのことも知っているものと思われる。しかし、これまでに、モラードがそのことについて話したことがあっただろうか?
エストにはまだまだ隠された秘密があるのかもしれない。エスト誕生やその卓越した性能には超帝國のテクノロジーが関わっている、かもしれない。モラードがヤーンに会ったことがあるならば、何かしらの影響があるだろうと、ぼくは考える。
なお、ヤーンは剣聖カイエンの母親であり、実際にはバランシェファティマのクーンが出産した。バランシェはカイエンの誕生に関わっている。
これまでに、バランシェがAFガーランドの代表として語られることが多く、また彼の異端ぶりばかりが印象に残ってしまっている。バランシェは狂った科学者だけれどモラードは常識人だという印象があった(モラードは自分たちガーランドが常識や倫理から外れた人間だという自覚はある/16巻)。この二人が最高峰のガーランドであることは当初から変わらないけれど、バランシェファティマと比べてモラードファティマが特筆すべきものだと語られることは、ほとんどなかったのではないだろうか(エストを除いて)。ぼくが最近になって思うのは、数々の狂ったエピソードがあるバランシェと比べて大人しい印象のモラードについて、まだまだ知られていないことがあって、それが判明する日が近いのではないかということだ。
そして、システム・カリギュラの技術を用いてコピー体が誕生するとき、本体のモラードがおかしくなったりはしないのだろうか?
久しぶりに3巻を読んで、ここには、これからのファイブスター物語がとてつもなく面白くなっていく予感がたくさん詰まっていたなあと若い頃に期待していたことを思い出して、懐かしかった。
3巻の表紙が一番好き。

















