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なぜモーターヘッドを捨てたのか #FSS_jp #GTM_1101

 連載再開時にファイブスター物語での戦闘ロボットの総称モーターヘッドゴティックメード(GTM)に変更され、同時にすべてのモーターヘッドのデザインもGTMの基本骨格ルールに基づいて変更となった。
 GTMとは、これまでの永野護デザインのロボットを含む、これまでのアニメや漫画のロボットとはまったく異なる、特殊な可動システムを持つロボットであり、それゆえに全体のフォルムも異様なものとなった。大きな特徴は、肘や膝にみられる、ツインスイングと呼ばれる、曲がる方向と反対に膨らんだかたちとなる「Z型」の関節だ。この関節は、巨大なロボットの手や足を効率よく、そして超高速に動かすために適しているのだという。モーターヘッドでもそうだった細い腰はさらに細くなり、もはや2本の背骨しかない。そして首も細くて長い。胴体が細く手足が大きい、人間と異なるプロポーションは、巨大なロボットを無理なく動かすことに特化したものであり、それは実際に映画『花の詩女 ゴティックメード』のなかで証明されている。
 GTMという、まったく新しいロボットデザイン。それ自体は素晴らしいものなのだが、正直、これがファイブスター物語に組み込まれるとは誰も想像していなかった。連載再開時の衝撃。なぜ永野は、これまで何年もかけて作り上げた膨大な数のモーターヘッドを、すべて捨てたのだろうか。
 永野は好きな音楽の話をするとき、これは古いからゴミだ、などと、一般的に「名盤」と呼ばれているものでも容赦なく切り捨てる。かつて良いと感じた音楽であっても、常に最新の音楽に取って変わるものであり、アンダーグラウンドから生まれる本当の最先端の音楽しか自分は聴くことが出来ないのだと、永野は言う。
 永野のファンであれば、永野が飽きっぽい性格だということは、すでに承知のことだ。年表によってラストが決定されているファイブスター物語も、永野による細かな追加が常に行われてきた。超帝国やドラゴンなどは、連載開始時の年表には存在していなかった。また、モーターヘッドのデザインそのものは変更されなかったが、細部のディティールが加えられたバージョンが新たに公開されてきた。そもそも、物語が年表の順番通りに描かれないことが、飽き性の現れだろう。そしてついに、永野は、20年以上前にデザインしたモーターヘッドのデザインに飽きてしまった。だからGTMに変更した。
 仮にそういうことだとして、映画製作が先にあってのGTM変更なのか、それとも、GTMに変更するために映画を作ったのだろうか。そのようなことを、ふと考えてしまった。
 ファイブスター物語のロボットをGTMに変更することが目的で、映画作りはそのための手段だった。この仮説は荒唐無稽であり、膨大な予算を必要とする映画作りがそのような個人のわがままで認められるわけがない。
 明らかなのは、この映画の製作と、GTMを含むファイブスター物語の設定変更が、同時に進められていたということだ。
 1984年、本格的デビュー作となるエルガイムにて永野は、これまでのロボットにない画期的な発明を行った。それは、関節の可動領域の拡大だ。これまでのアニメロボットは基本的にブロックの組み合わせのデザインでしかなく、立体(玩具)にしたときに関節がほとんど曲がらない。ガンダムの背中のビームサーベルを抜くこともできない(一応書いておくが関節が曲がらないこととデザインの良し悪しは関係ない)。アニメ本編の作画では、要するに嘘をついて動かしてきた。エルガイムで永野が会社から求められたのは、リアルなメカニカル描写と設定だったという。そこで永野は、まず骨格から作った。それが、現在のガンダムシリーズにまで継承されている、ムーバブルフレームだ。永野は、ロボットを人間のように動かすためには、人間のそれとは異なる骨格でなければならないとして、肩の張り出しを大きくしたり、腕や脚に二重関節を取り入れた。主役ロボットのエルガイムの玩具「ハイ・コンプリート・モデル」は正座させることも可能となっている。
 そして永野は、エルガイムのロボットデザインや骨格をガンダム世界に取り入れた。当時、「ガンダムのことを大切に思っている」多くの人達から反発されたのだが、現在でも続いているガンダムと、バンダイから発売されているプラスティックキット(ガンプラ)のデザインの骨格は、永野が生み出したムーバブルフレームのバリエーションでしかない。当時、永野に対して激しく反発したバンダイは、一方で現在も永野のデザイン骨格で商売をしている。それを悪いこととは思わないのだが、骨格が同じなので結果的にガンダム世界のロボットはどれも似たようなものになってしまった。最初のガンダムアムロ・レイが搭乗した機体)のプラスティックキットが幾度となくリファインされ、初期設定になかったムーバブルフレームまで採用し、ものすごく可動するモデルとなったことを多くのファンは嬉しく感じているのかもしれないが、永野ファンである自分にとっては、とても恥ずかしいことだと感じてしまうのだ。それ、永野護の仕事の盗用だよね、そんなことやってる暇があったら新しいデザインのロボットを作ればと、思ってしまうのだ。
 アニメのデザイナーである永野は、これまでにも優れたロボットデザインを発表してきた。それらは、アニメで動かすことが前提となるものであったし、その点で合理的でなければならない、優れたデザインであったはずだ。一方、ファイブスター物語のロボット、モーターヘッドのデザインとは、そのような制約から外れた自由なものであった。オージェやバッシュなど、エルガイムから引き継がれたもの、サイレンなどの新デザインラインのモーターヘッド。それらは連載途中にバージョンアップされ、精密かつ先鋭的なものとなっていった。また、ガレージキットと呼ばれる小規模生産の組み立て式キットも販売された。それらのガレージキットは、まず、永野の超精密なデザインを立体化するという無謀な試みであり、そして才能のある原型制作者たちによって洗練を極めた。主役ロボットの最終バージョン「レッドミラージュV3」は2000年に公開され、モーターヘッドのデザインは、これ以上ないというところまで進化した。
 しかし、モーターヘッドのデザインは次第に、ある傾向に陥ってしまっていたのではないだろうか。
 GTMのデザインを見て、まず驚いたのは、基本的な骨格が厳密に決められているということだ。2本の背骨と長い首、ツインスイングと呼ばれる特殊なデザインの関節、胴体に対して大きすぎる手足。これらから構成されるGTMの骨格は、どの国のGTMでも変わることがない。ミラージュ騎士団の主役級GTM、B型ミラージュとマグナパレスは、それらとは異なる奇怪なデザインとなることが予告されているのだが、全体のデザイン画はいまだ公開されていない。これはファンとして楽しみである。
 とにかく、GTMのデザインは、このようなデザインでなければ動かないと永野が考案した、これまでにない、まったく新しいロボットデザインだ。そして、その動きは、映画のなかで証明された。
 GTMのデザイン、そしてこの映画を見てしまってから、ぼくが感じるのは、従来のモーターヘッドデザインだと「動かない」だろうということだ。お台場のガンダムだって、とてもじゃないが実際に動くようには思えなくなってしまった。それは、この映画を見た者だけが共有し、感じていることだろう。しかし、ファンとしての自分は、もう後戻りが出来なくなってしまった。GTM以外のロボットアニメを見ることが出来なくなったということはない。ガンダムエヴァンゲリオンも、これまで通りにぼくは楽しめる。それでも、ファイブスター物語に関しては、もうGTM以外にないだろうというところまで、ぼくはたどり着いてしまったのだ。
 先に書いた、映画の企画が先か、GTMが先かという疑問は、とりあえず保留しておく。
 今回の方法でしか、作者自身による「ファイブスター物語のアニメ化」は実現できなかった。昔から永野は、ファイブスター物語の完全なるアニメ化をいつかやりたいと主張していた。しかし、いったん漫画として発表したものをアニメにする意味はないと永野は繰り返し語ってきた。だから、これはオリジナルですよと吹聴して『花の詩女』という映画を作り、ファンまで騙して、ついに「ファイブスター物語のアニメ化」をやってのけてしまった。この男のファンをやっていると色々と驚かされることが多いのだが、今回の事件は、まさに天晴れと言うしかない。
 なぜモーターヘッドを捨てたのか。永野護が飽きたのだろうということを、ぼくは否定できない。GTMの基本骨格の誕生により、デザインの自由度はなくなったのかもしれない。しかし、合理的に動かすには、これしかなかった。そして、これまでのデザインのまま、アニメのなかで動かすには色々と無理があったと永野は感じてきたと、ぼくは思うのだ。
 それでもぼくは、永野がモーターヘッドを完全に捨てたとは思っていない。漫画のなかに登場することは2度とないだろう。しかし、モーターヘッドガレージキットは、連載再開後の2014年現在でも、そのまま販売されている。だから、すべてのロボットの名称を強引に変更したのは、モーターヘッドを愛するすべてのファンに対する配慮、作者からのメッセージだったのかもしれない。

 謎のGTM「MK-Ⅱ」が表紙を飾る月刊ニュータイプ2012年12月号。この名前だけは残ったね。といってもエルガイム時代からってことになるけど。

お知らせ(2015年1月12日)

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